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著者:Barry B. Phillips and Tyler J. Brolin
翻訳:美舩泰(神戸大学大学院医学研究科・整形外科),乾淳幸(神戸大学大学院医学研究科・整形外科)
編集:黒田良祐(神戸大学大学院医学研究科・整形外科)
 
上肢の診断的および外科的関節鏡手術は,外科医が関節鏡に習熟し,適切な器具が開発されるにつれて,一般的になってきた.手術を成功させ合併症を最小限にするためには,各関節の解剖,疾患,関節鏡的変化,および病理学的所見についての十分な知識が不可欠である.この章では,関節鏡治療の適応,患者の準備,ポータル作成部の解剖,関節鏡に特有な手技,ならびに肩関節,肩鎖関節,および肘関節の関節鏡手術後の合併症について考察する.

肩関節  
    痛みを伴う症候群,機能変化,ならびに不安定性や関節内の障害の徴候および症状が肩に頻繁にみられる.このような機能障害の原因を証明するのは困難である.基礎にある原因は,肩甲帯,頚,および胸郭の適切なX線検査と慎重な病歴検査および身体診察の組み合わせにより,しばしば確定できる.さらなる精密検査には,ストレスX線検査,関節内造影CT・MRI,超音波検査,および筋電図検査/神経伝導検査等が含まれる.
     
    適切なX線写真を入手すべきであり,肩関節外旋前後像,肩関節を内旋させた真の前後像(Grashey像),肩甲骨Y像,腋窩側面像を含めるべきである.青年期の運動選手では,オーバーヘッド動作を必要とするスポーツ中に利き手側の痛みがある場合,肩を内旋および外旋させた前後像が骨端損傷の評価に役立つ.不安定症状を呈する若年成人では,関節窩および上腕骨頭の骨欠損の可能性を評価するために,West Point,BergeneauおよびStrykerノッチ像等のX線検査が必要になることがある.
     
    MRIは肩関節周囲の軟部組織構造の評価に有用であり,腱板病変の同定に最も有用である.関節内造影像(MRA)は,標準的なMRIでは可視化が困難な関節唇病変の同定に最も一般的に用いられている.急性期の不安定症では,関節血腫により良好な造影効果が得られることもある.MRAは,二頭筋関節唇複合体または上関節唇後面(SLAP)断裂の評価にも有用であり,肩甲上腕靱帯の上腕骨剥離をより正確に描出する.慢性的な不安定症の場合,またはX線検査で不安定症による骨欠損が示された場合は,関節鏡視下または観血的再建術が必要かどうかを決定するために,3次元CTが骨欠損を定量化する最良の手段である.
     
    すべての関節鏡視下手術には,慎重で徹底的な術前計画が不可欠である.外科医はまた,予想外の所見の可能性を考慮し,最良の結果を得るために必要な場合にはオープン手術の準備を行うべきである.
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