1854年にPagetにより記述された手根管症候群は,最も一般的な上肢の圧迫神経障害であり,手根管内での正中神経の圧迫に起因する.手根管は,背側は手根骨アーチ,内側は鉤突起と豆状骨,外側は舟状骨結節と大菱形骨稜で形成される.手根管の「屋根」,すなわち掌側は屈筋支帯によって形成されており,近位は前腕筋膜深層,手関節部では手根横靱帯(TCL),遠位では母指球筋と小指球筋の間の腱膜からなる.手根管内で最も手掌側の構造は正中神経である.手根管内で正中神経の背側(深部)には,計9本の前腕からの指屈筋腱と母指屈筋腱がある.
手根管症候群は主に臨床症状から診断され,症状としてはピリピリした痛みやしびれが正中神経支配領域(母指,示指,中指,環指橈側)にみられる.うずくような痛み,奥の方の痛み,またはズキズキする痛みと表現される痛みが手にびまん性に生じ,その痛みは前腕まで放散することもある.母指球筋の萎縮は神経圧迫の晩期症状として通常みられる.30~60歳の患者に最も多くみられ,女性は男性の2~3倍の頻度といわれる.手根管症候群は米国人口の1%~10%にみられ,高齢,過体重,および身体的に不活発な個人は,手根管症候群を発症する可能性が高く,女性,肥満,喫煙,および仕事に関連する振動は,産業労働者における手根管の危険因子として同定されている.