骨と関節の感染症は整形外科医にとって大きな課題である.ほとんどの細菌感染症は抗菌薬治療により高い治癒率が得られているが,骨の生理学的および解剖学的特徴のため,骨および関節の感染症では高い治癒率は得られていない.米国では年間約8000万例の手術が行われており,高齢化の進展に伴い今後も増加する可能性が高い.米国疾病予防管理センター(CDC)は,米国における手術部位感染(SSI)全体の割合は2.8%と推定している.米国では毎年約30万件のSSIが発生しており,患者の入院日数は平均6.5日多くなり,手術費用は2~5倍にもなる.菌血症は一般的にみられるが(通常の歯磨きで25%発生すると推定される),感染が起こるには他の病因が存在しなければならない.菌血症によるものであれ,直接接種によるものであれ,骨内に細菌が存在するだけでは骨髄炎を起こすには不十分である.病気,栄養不良,免疫不全が骨や関節の感染症の一因になることがある.身体の他の部位と同様に,骨や関節も感染に対して炎症反応や免疫応答が生じる.骨髄炎は,十分な数の病原性微生物が宿主の自然防御機構(炎症および免疫応答)を克服し,感染巣を形成した場合に発生する.局所の骨格の要因も感染の発症に関与している.例えば,小児の骨の骨幹端には貪食細胞が相対的に少ないため,この部位で急性血行性骨髄炎がより一般的である理由を説明しうる.
骨膿瘍の特徴は,組織が膨張する可能性がほとんどない硬い構造の中に収まっていることである.感染が進行すると,膿性物質がハバース管系およびVolkmann管を通り,骨膜を骨表面から持ち上げる.髄腔および骨膜下の膿の合併は,皮質骨の壊死を引き起こす.この壊死した皮質骨は腐骨として知られており,抗生物質の投与にもかかわらず細菌を保持し続けることがある.抗生物質および炎症細胞はこの無血管領域に十分に到達することができず,骨髄炎治療が失敗に至る.