監訳者序文
整形外科手術書のバイブルと呼ばれる「キャンベル整形外科手術書」第14版を監訳する機会をエルゼビア社からいただきました.4,500ページに及ぶこの大書を訳することができるだろうかと逡巡いたしましたが,この企画はわが国の若い整形外科医にとって意義大きいものと思い,監訳者を務めることにさせていただきました.
本書はキャンベルクリニックにおける知識と経験の結晶と言えます.キャンベルクリニックとはテネシー州メンフィスにある米国を代表する整形外科病院で,創業者であるウィリス・C・キャンベル博士が,1909年に開院し,その名を冠したクリニックです.その後,キャンベル博士はテネシー大学メンフィス校に整形外科を設立し,整形外科レジデンシープログラムを確立したほか,アメリカ整形外科学会(AAOS)を共同で設立し,presidentを務めました.1939年,キャンベル博士は整形外科に関する膨大な知識を『Campbell's Operative Orthopaedics』に書き記しました.この本は,整形外科手術の教科書として初めて書かれたもので,すぐに整形外科分野のバイブルとなり,現在もその役割を担っています.創刊以来,本書はキャンベルクリニックの医師達によって4~7年ごとに更新・改訂され,7カ国語以上に翻訳され,世界中で読まれ続けてきました.2021年に発行された第14版では,4,500以上の図解ページで,約1,900の手術方法が解説されています.
本書の特徴は数多くの手術法が載せられていることに加え,イラストの色彩が豊かで非常に見やすいことです.各手術について,手術の適応,画像診断を含めた診断,外科解剖,手術の体位,順序立てた手術手技の実際,後療法,期待される効果などがわかりやすく記載されています.また中核となる手術手技は色を変えた枠で括って読みやすくする工夫が加えられています.さらに,治療選択のアルゴリズム,術後の評価方法,文献的な治療成績,手術の各段階における落とし穴,その手術に必要な器械まできめ細かく丁寧に記載されています.加えて代表的な手術はビデオでも見ることができ,文字ではわかりづらい部分が動画によって理解しやすくなっています.
私が整形外科医になりたての頃,医局の先輩に読むべき教科書をお尋ねしたところ,その先輩は真っ先に「キャンベル整形外科手術書」を挙げられました.研修医にとって決して安いものではありませんでしたが,本書が私に与えてくれたものは計りきれません.非典型的な骨折の治療に途方に暮れたとき,本書にヒントを見つけて感動したのを昨日のことのように覚えています.術者として初めての手術に挑むとき,あるいは経験はあっても不安なときには本書を読み返して準備に抜かりがないかを確認しました.私にとって本書は偉大な先生の1人と思っています.本書が整形外科診療に携わる医師の座右に置かれ,日常診療のさまざまな場面で活用されることを心から願っております.
今回の翻訳作業は97名の専門領域の先生方によってなされました.膨大な作業をこなしていただいた皆様に深く感謝いたします.特に各分野の総括をご担当いただいた松田秀一先生,川島寛之先生,今釜史郎先生,黒田良祐先生,渡部欣忍先生,岩崎倫政先生,仁木久照先生,山口亮介先生には深甚なる感謝しかありません.最後に,忍耐強く本書の編集を担当いただいたエルゼビア・ジャパン株式会社の書籍編集チームの皆様にも心から感謝いたします.
2023年3月
九州大学整形外科
中島康晴