著者:James L. Guyton
翻訳:黒田隆(京都大学大学院医学研究科・整形外科)
編集:松田秀一(京都大学大学院医学研究科・整形外科)
発育性股関節形成不全およびLegg-Calvé-Perthes 病のような小児期の状態から生じる著しい股関節変形は,成人期に二次性変形性股関節症を生じることが以前から知られている.過去20年間にわたり,股関節のより微妙な変形が,以前に「一次性変形性股関節症」と考えられていた患者における変形性関節症の発症に関与していることがわかってきた.股関節の一次性または特発性変形性関節症は,未知の理由で個人のサブセットに存在する股関節軟骨の加齢に関連した化学的および機械的劣化の影響によって関節炎が進行する.以前はこの一次性変形性股関節症に属すると考えられていた多くの患者が,現在では時間の経過とともに変形性関節症につながる股関節のインピンジメントによるものと考えられている.
1965年にはすでに,Murrayは変形性関節症につながると考えられる大腿骨近位部のわずかな「tilt deformity」について記述していた.小児期からの股関節の小さな変形は必然的に変形性関節症につながるというこの理論は,1975年に近位大腿骨(図6.1)の「ピストルグリップ」変形という用語を作り出したStulbergらによって再び述べられた.1990年代半ば,Ganzらは大腿骨および寛骨臼の変形に起因する股関節インピンジメントの記述を改良し,これらの変形を矯正する技術を記述することにより,症候性若年成人患者における股関節温存手術の新時代を導いた.