特に前腕,手関節および手部における屈筋腱の解剖についての基礎知識は,指における深指屈筋および浅指屈筋の本質的な生体力学的側面を理解することである.腱の栄養は,2つの基本的な供給源に由来すると考えられている:(1)腱鞘内滑膜で産生される滑液,および(2)腱傍組織内にある縦血管,腱停止部の骨内血管,および腱ひもからの循環(図66.1)を介して供給される血液である.無血管領域は,基節骨のA2滑車部の浅指屈筋腱に存在する.深指屈筋腱には,A2滑車部とA4滑車部の2つの無血管領域が存在する.腱治癒は外因性および内因性機序の活性を介して起こると考えられており,炎症期(48~72時間),線維芽細胞期(5日~4週間),およびリモデリング期(4週間~約3.5か月)の三相で起こる.外因性機序は周辺組織由来の線維芽細胞の活性を介して起こり,主に瘢痕と癒着の形成に寄与する機序であるとされる.また,内因性治癒は,腱由来の線維芽細胞の活性を介して起こるとされる.
腱の癒着は腱損傷および治癒に関連して起こるが,腱修復過程自体にとって必須ではないと考えられている.実験的には,腱損傷のみでは癒着は生じないが,滑膜性腱鞘の損傷を伴う腱損傷と固定によって広範な癒着が生じることが示されている.癒着の形成を防止する技術には,物理的なバリアや化学的な薬剤を使用する方法がある.しかし,臨床の場で信頼性が証明されたものはない.サイトカインの操作や遺伝子治療,間葉系幹細胞治療は,癒着の形成をコントロールする方法として有望な研究分野である.治癒過程の腱に周期的に緊張を加えると,緊張をかけない場合よりも内因性の治癒反応を促進することが実験により示唆されている.これらの知見により,癒着の形成を減少させ,最終的な結果を向上させるための術後モビライゼーションの技術が開発された.他動および自動運動によるリハビリテーションを可能にするのに十分な強度の腱修復を行うため,研究者らは,この章で後述する縫合糸の素材,サイズ,および中心および周辺の縫合技術に関する相当な量の情報を生み出してきた.