著者:Andrew H. Crenshaw Jr.
翻訳:原田将太(福島県立医科大学外傷学講座・総合南東北病院外傷センター)
編集:渡部欣忍(帝京大学医学部付属病院外傷センター)
脱臼は可能な限り速やかに整復すべきである.関節が脱臼すると,硝子軟骨の代謝が障害され,滑液の機能が損なわれる.硝子軟骨は短期間で変性し始めることがあり,不可逆的な変化が急速に起こる.したがって,陳旧性脱臼が最終的に整復されても,正常で痛みのない関節運動と機能は期待できない.
陳旧性脱臼,特に肘関節,股関節,膝関節,足関節では,整復時や整復直後に人工関節置換術や関節固定術が必要となることがある.選択する手技は,罹患関節,関節軟骨の状態,関連する損傷,患者の年齢および職業等の個々の状況を考慮して決める.治療法の選択肢には,脱臼整復,人工関節置換術,関節固定術がある.
子どもや若年者には,脱臼の整復だけで通常は十分である.高齢患者では,脱臼整復に加えて関節形成術あるいは関節固定術を併用することで,よりよい経過が得られる.脱臼していても日常活動が制限されておらず,過度の疼痛がない患者では,脱臼整復の適応とならないことがある.特に高齢患者ではその可能性が高い.
ほとんどの陳旧性脱臼には観血的整復が必要となる.しかし,脱臼からどのくらい経過すると非観血的脱臼整復が不可能になるという明確な制限期間はない.数週間にわたって脱臼していた関節が,直達牽引によって整復できることがある.受傷から2~3週間が経過している場合は,慎重かつ愛護的にマニピュレーションを行う必要がある.脱臼後の骨は,廃用性の骨粗鬆症によって,急速に脆くなるため,マニピュレーション手技により骨折することがある.レバー等の器具を用いて観血的脱臼整復を行う場合には,関節面がさらに損傷を受ける可能性があるため,同様の注意を払うべきである.したがって,観血的整復でも非観血的整復でも過剰な力による整復操作は避けるべきである.この章では,陳旧性脱臼のうち最も一般的なものについて述べる.