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著者:James H. Calandruccio and Benjamin M. Mauck
翻訳:依田拓也(新潟大学整形外科)
編集:川島寛之(新潟大学整形外科)
 
急性の指尖部および母指損傷はよくみられ,不全切断では迅速かつきめ細い複合組織修復が必要である.母指または多数指の爪郭より近位での完全切断は,マイクロサージャリーによって救済することができる(第63章を参照).しかしながら,より遠位の阻血を伴う損傷がこの方法で救済できることはまれであり,通常は特殊な複合組織による被覆手技や完全切断術を必要とする.
 
一般に,良好な皮膚感覚,関節可動性,十分な量の骨性要素を伴った指の長さを維持,または与えるために,あらゆる努力を払うべきである.重度の損傷を受けた構造物,特に感覚のない構造物を温存するための長期にわたる努力は,治癒を遅らせ,障害を増大させ,痛みを伴う一連の外科的処置につながる可能性があり,最終的な転帰を向上させないかもしれない.このため,一期的切断術が多くの患者で選択される手技である.手指の断端の柔軟な軟部組織による被覆を達成することが不可欠である.多数指切断では,つまみと把持が保存すべき主な機能である.指や中手骨での再切断術は,手の損傷部位と非損傷部位の機能を可能な限り温存する再建術である.

切断術の検討  
    切断は,疼痛,拘縮,無知覚,整容上の問題等によって機能が制限されるさまざまな状況に対して考慮される.患者による損傷部位の切断の要求は,批判的思考過程の頂点であり,通常は正当化される.多くの場合,切断が望ましいかどうかを決定する際には他の因子を考慮しなければならない.損傷部の最終的な機能は,再建手術を正当化するのに十分良くなければならない.
     
    5つの組織(皮膚,腱,神経,骨,関節)の評価が,切断の決定に役立つことがある.これら5つの部位のうち3つ以上に,皮膚移植,腱縫合,神経縫合,骨固定,関節閉鎖等の特別な処置が必要な場合は,切断された指の生着により残存指の機能が損なわれる可能性があるため,切断術を考慮すべきである.小児では,その部位が温存不能であり,マイクロサージャリーでも温存できない場合を除き,切断術が適応となることはまれである.再接着術の原則については第63章で述べる.
     
    切断術が適応となる場合でも,指の一部が後の再建術で有用となる可能性がある場合は,切断術を遅らせるのがよいかもしれない.他に使い道のない指の皮膚でも遊離植皮として用いることができる.皮膚や深部の軟部組織は,残存皮弁として使用できる(第65章を参照)希望されれば,まず骨を除去し,残りの皮弁を第二の手技中に適切に形成できる.皮膚は骨でなく1つ以上の神経血管束でよく把持されており,温存して血管付きまたは神経血管付き島状皮弁として用いることができる(第68章を参照).神経髄節は自家移植として有用である.筋腱,特に浅指屈筋または固有示指伸筋は,残存している指の機能改善を目的とした腱移行のために温存することができる(例:第三中手骨が破壊されたときの母指の内転筋力を改善するため,または正中神経反回枝が機能していないときの母指外転を改善するため).小指の浅指屈筋腱,小指伸筋腱,固有示指伸筋腱は遊離腱移植として有用である.骨は骨釘や骨欠損部の充填に使用できる.状況によっては関節でさえも有用な場合がある.親指の機能温存にはあらゆる努力をすべきである(図19.1).
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