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著者:Anthony A. Mascioli
翻訳:高木基行(福島県立医科大学外傷学講座)
編集:渡部欣忍(帝京大学医学部附属病院外傷センター)
 
急性脱臼では時に観血的手技が必要となる.合併症のない脱臼では,まず静脈内鎮痛または全身麻酔による鎮静による非観血的整復を試みるべきである.全身麻酔が必要な場合,非観血的整復が成功しなければ,手術室スタッフは観血的手術の可能性に備える必要がある.関節面の間に軟部組織や骨が介在して徒手整復が不可能なことがあるため,過剰な力で徒手整復してはいけない.無理な操作は,骨折やさらなる関節損傷を引き起こす可能性がある.X線透視装置の使用することで,そのような合併症の軽減と予防に役立つであろう.
 
急性脱臼は可能な限り速やかに整復すべきである.ただちに整復しなければ,特に股関節周囲では,病理学的変化が生じる.しかしながら,急性脱臼の即時整復は満足な結果を保証するものではなく,初期評価および治療時に患者にこのことを説明するべきである.関節軟骨,関節包,靱帯,および骨の血管への損傷は,外傷後関節炎を引き起こしうる.観血的または非観血的整復後に,異所性骨化,外傷後関節炎,あるいは骨壊死がどの関節にも発生する可能性があることも患者に説明すべきである.
 
これらの合併症は通常,脱臼の原因となった大きな力によって起こる.関節脱臼時に神経血管構造が損傷し,生理的な完全神経ブロックまたは持続性神経炎を生じることもある.非観血的や観血的整復を行う前に,神経損傷を発見し,患者のカルテに注意深く記録すべきである.神経が伸延されたり,挫滅したり,断裂したりする.伸延が最も多くみられ,神経は通常自然に回復する.神経が手術野にない限り,観血的整復時に神経を展開しようとしてはならない.適切な時間が経過しても回復の徴候がみられない場合は,第68章に記載されているように神経に対する外科的検索を行うべきである.脈拍が著明に減弱または消失している四肢では,動脈造影および血管検査が必要である.

観血的整復の適応  
    次のような状況があれば,急性脱臼の観血的整復の適応である.
     
    1.解剖学的で求心性の整復が,全身麻酔下の愛護的な非観血的整復でも達成できない場合.介在した軟部組織または骨軟骨片により整復不能となっている可能性がある.
     
    2.安定した整復が維持できない場合.関節内骨折はしばしば不安定であり,整復の安定性を確保するために整復固定しなければならない.
     
    3.非観血的整復前に注意深く評価して神経機能が正常であったが,整復後に明らかな運動および感覚神経の完全な障害が明らかになった場合.
     
    4.損傷部より遠位の循環障害が整復前に認められ,整復後も持続する場合.血管検査を含めた循環動態のさらなる評価が不可欠である.
     
    5.虚血が持続する場合.血管損傷の適切な管理を伴う外科的検索が適応となる.
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