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スワンソン総合診療問題集
問題志向のアプローチ

監訳・監修者:竹村洋典
本書は、米国で何世代にもわたり総合診療医に愛され、最も定評のある書籍であるSwanson's Family Medicine Reviewの初の日本語版である。約2500問の臨床問題を通じて、診断・治療・管理をシミュレートしながら、総合診療に関する基本的な概念に精通できる構成になっている。また、本書は電子書籍である利点を生かし、日本のガイドラインの改訂等に合わせ、更新を行う新しい形のテキストである。

 もう40年以上も前のことになってしまったが、私は、米国のテネシー大学にて3年間の総合診療専門研修(family medicine residency program)を受けた。当時の日本には総合診療の概念がほとんどなかった。日本では人によって内容も異なっていた。名前ですら総合診療、総合医、総合臨床、家庭医、ジェネラリスト……と一定していなかった。そんな状況下で私にとって米国の総合診療医は夢であり燦燦と輝く星であった。どうしてもそれに触れたくて米国のすべての約400プログラムに手紙を送ったのが懐かしい。そしてついに渡米、研修が始まる。そして米国の研修を受けてその幅広さと、ある程度の深さにとても驚いた。そして私が考えていた「総合診療」以上のものであることを認識した。

 内科領域や精神科領域だけではない。産婦人科領域でも妊婦検診から分娩介助も。帝王切開の助手までする。さらには産褥婦のケアも行う。婦人科においても子宮頸部の擦過細胞診をはじめ、さまざまな検査手技を普通に行う。生まれた児はその時からかかりつけ医に。新生児から小児の外来診療も入院診療も行う。耳鼻科、眼科、皮膚科などのさまざまな検査手技も自ら実施。簡単な皮膚縫合はもちろん、精管結紮術(パイプカット)まで普通に行う。救急外来(ER)でも、ありとあらゆる主訴の救急患者をもまず診察する。そして、さまざまな診療科の医師と連携した。コメディカルとも一緒に診療する、しかもかなり対等に。例えば、看護師は入院診療においても外来診療においてもかなりの権限が与えられている。MSWなど福祉系の人との連携もよく行われる。ティンエイジャーの出産後の養子縁組の相談まで。そして、それらが患者中心に行われる。患者の考えや期待、また患者の背景にある心理、家族、社会、経済的なさまざまな要因を勘案しながら診療する。

 そしてふと思う、「このような包括医療、連携を提供し患者中心の医療を教え込むのは自分の属するテネシー大学のプログラムだけなのか?」と。そしてどこまでの診断的、治療的な診療・手技などがほかの医療機関の総合診療医は行なっているのか。そんな不安を同僚に漏らすと、「ヨウスケはSwansonの問題を解いたらばいい」と教えてくれた。かなり多くの同僚がそれに同意した。スワンソン?それは総合診療の最も標準的な診療を体験できる問題集であり、それを知らない専攻医はいないとのことだった。

 早速この問題集Swanson’s Family Medicine Reviewを購入し、問題と対峙した。自分が米国の総合診療専門研修で行っているさまざまな診療内容が問題として次々と出題されており、とても納得したのを覚えている。自分が受けている総合診療研修が北米基準に合致しているのが確認できた。そして北米のすべての総合診療医の質の高さが認識された。

 日本の同様の問題集だと、各専門医が集まって作ったような難しくて、しかも実施する手技や治療も到底、総合診療医にはできそうもないもの、または端から専門診療科に紹介すべき、みたいなものが多い。その点、Swansonの問題集は、北米の平均的な総合診療医が実施すべき診療が基準となっている。これは世界レベルのプライマリ・ケアと言ってもいい。網羅的な無数の選択肢ではなく、切れのよい厳選された選択肢数はこの問題集の特徴と言ってもよかろう。他の教科書のように安全面を担保するために覚えきれないほどの鑑別診断を挙げることもない。それゆえに、もっとも重要で、かつ必要な知識がどんどんと身につく。

今の日本では、改訂版医学教育モデルコアカリキュラム、医学教育分野別評価基準などで、卒前医学教育において総合診療科での研修は必須となっている。Swansonを使用して少なくとも世界レベルのプライマリ・ケアの知識を身に着けることは、日本の医学生の良い目標となると思われる。また、日本のすべての医学部医学科卒業生は2年間の臨床研修でプライマリ・ケアレベルの診療を身につけることが目的となっている。臨床研修を受けるすべての研修医が、Swansonレベルの知識は身につけてもらいたい。さらには、総合診療専門研修や内科専門研修などの専攻医については、このSwansonで出題される臨床能力がきちんと実行できるぐらいになってほしい。そして世界の総合診療医(family physician、general practitioner、またはhospitalist)と対等に話ができるようになってほしい。また、総合診療医のみならず、あらゆる専門診療科の専門医にとっても、その基盤にプライマリ・ケア能力があることが重要である。それがあるからこそ、専門性が磨かれるといっても過言ではない。

 すべての医学生、医師が世界レベルのプライマリ・ケアをSwansonに接して、世界レベルのプライマリ・ケアを認識し、それを基に研鑽・研修を積んで、日本の多くの医師が世界で戦えるプライマリ・ケアを基盤にした臨床医となってほしい。

竹村 洋典
注:本書では、family medicineの訳を「総合診療」としているが、これは厚生労働省の「専門医のあり方に関する検討会(2013年)」でこの分野の専門医名称を「総合診療医」とすることになったこと、また現在、日本専門医機構の基本領域専門医においても「総合診療」となっていることから、使用している。
略歴

早稲田大理工学部から1982年に防衛医科大に入学。1988年に防衛医科大病院等で総合臨床医学研修を開始、1991年に米国・テネシー大にて3年間、家庭医療レジデントとなり米国家庭医療専門医および米国家庭医学会フェロー取得。1995年熱帯医学フェロー。1998年から防衛医大病院総合臨床部・助手。2001年から三重大医学部附属病院総合診療科・准教授、2010年から三重大学大学院医学系研究科家庭医療学/医学部附属病院総合診療科・教授。2018年7月より東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科全人的医療開発学講座総合診療医学分野教授。三重大学名誉教授。2022年より東京都保健医療公社 多摩北部医療センター総合診療科 部長。

日本専門医機構総合診療医検討委員会・委員、認定更新部会長。日本医師会生涯教育推進委員会・委員。

米国家庭医療専門医・米国家庭医学会認定フェロー、日本内科学会認定総合内科専門医・指導医、日本プライマリ・ケア連合学会プライマリ・ケア認定医・指導医、日本医学教育学会認定医学教育専門家、日本混合研究法学会・監事。

米国家庭医療学会・研究優秀賞、日本プライマリ・ケア学会・学会誌優秀論文賞受賞。

日本プライマリ・ケア連合学会誌編集長、Asia Pacific Family Medicine Journal編集長。医学博士。

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